ネーミングの基礎知識
カフェを開業する際、「どのような名前を付ければよいのだろう」と悩む方も多いのではないでしょうか。
カフェのネーミングは、単に店舗を識別するための名前ではありません。空間の雰囲気やコンセプトを来店前に伝え、「行ってみたい」と思ってもらうきっかけをつくる重要な要素です。また、看板やGoogleマップ、Instagramなどで目にする機会も多いため、覚えやすさや検索しやすさまで考える必要があります。
本記事では、カフェのネーミングが重要な理由から、名前を考える際に活用できる手法、注意すべきポイントまで、実際のカフェの事例を交えながら解説します。
カフェのネーミングが重要な理由
全ての業種でネーミングは重要ですが、カフェに特化してなぜ名前が重要なのか解説します。
空間の世界観を来店前に伝える必要がある
カフェは、コーヒーや食事そのものではなく、「どんな時間を過ごせるか」にも価値がある業態です。
しかし、ユーザーは入店前に、その空間や雰囲気を実際に体験できません。自分に合いそうかどうかを限られた情報から判断する必要があります。
その限られた情報の一つがネーミングです。名前は、空間の方向性や過ごし方のイメージを先に伝え、来店前の期待値をつくります。
例えば、静かに過ごすカフェなのか、会話を楽しめる場所なのか、それとも感性を刺激する空間なのか、名前から受ける印象によって、感じ方が変わります。
ネーミングは、来店のきっかけを作る重要な要素です。
立地依存が強く、看板での瞬間判断が起きる
カフェは、事前に調べて行く場合だけでなく、店の前を通ったタイミングで選ばれることも多い業態です。
例えば、ランチの後に「まだ時間あるからカフェ入る?」といった流れやそ予定より早く着いたから少し時間をつぶしたい」といった理由で、近くのカフェを探す場面もあります。
こうした場面では、「入るかどうか」は数秒で判断されます。しかし、外観だけでは店ごとの違いは伝わりにくく、決定的な判断材料にはなりません。
そのときに機能するのが、看板に表示されるネーミングです。名前から受ける印象によって、「ここに入ってみたい」と思うか、それとも通り過ぎるかが決まります。
ネーミングは、このように直感的な判断と興味の両方に働きかけ、来店の意思決定を後押しする重要な要素です。
写真×名前で認識される
近年、カフェはInstagramなどのSNSで写真とともに認知されることも多いです。
スイーツやドリンク、席から見える景色など、体験の一部が切り取られて共有されています。
そのため、名前が印象に残らない場合、写真の雰囲気だけが記憶に残り、店舗の特定につながりません。その結果、「見たことはあるが行ったことはないカフェ」となってしまいます。
一方で、写真の印象とネーミングが結びついていれば、「あのカフェだ」と思い出すきっかけになります。ネーミングは、写真で得た印象を店舗の記憶として定着させる役割を担います。
カフェのネーミングのコツ
ネーミングには国内外でさまざまな手法やフレームワークが存在しますが、本章ではその一部を紹介します。
結合(造語)
既存の単語を掛け合わせて、新しい意味を持たせる手法です。
カフェは「空間×時間」「コーヒー×体験」といった複合的な価値を提供するため、異なる要素を組み合わせることで、コンセプトそのものを名前に落とし込めます。
例えば、「STREAMER COFFEE COMPANY(ストリーマーコーヒーカンパニー)」の、「STREAMER COFFEE」は、「Stream(流れ)」と「Coffee」を合わせたネーミングです。
創業者である澤田洋史氏が、世界レベルの技術を持つバリスタがコーヒーを流れるように注ぎ、表現する場所という意味を込めて名付けました。
このように、言葉の組み合わせによって表現することで、ブランドの世界観を伝えられます。
短縮・カバン語
長いコンセプトや複雑な価値を、そのまま名前にすると覚えにくくなります。
カフェは会話の中で選ばれる場面が多いため、短く言いやすい名前に落とし込むことが重要です。
例えば、Starbucksという名前は、ハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」に登場する、捕鯨船ピークォド号の一等航海士「スターバック」に由来しており、かつてコーヒー商人たちが大海原を航海していた歴史やロマンを想起させる意図が込められています。
このように、意味や背景を持つ言葉をベースにしながらも、「スターバックス」という発音しやすい形に整理されていることで、多くの人に受け入れられやすい名前になっています。
さらに、日本では「スタバ」と略され、多くの人に親しまれています。
抽出(一部利用)
抽出(一部利用)は、あえて情報を全て伝えず、一部だけを切り取ることで、想像の余地を残す手法です。
例えば、実在するONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)の「ONIBUS」は、コーヒー大国ブラジルの公用語であるポルトガル語で「公共バス」や「万人のために」という意味を持ちます。この名前は、人や文化が行き交う場所でありたいというコンセプトの一部を表現したものです。
全てを説明するのではなく、一つの言葉だけを提示することで、「どんなお店なのだろう」と想像させる余地を生み出しています。この未完成さが、ユーザー自身に意味を補完させ、「なんとなく気になる」という感覚につながります。
ただし、抽象度が高すぎると意味が伝わらなくなるため注意する必要があります。
多言語化(翻訳)
異なる言語を使うことで、カフェの世界観や雰囲気を一瞬で伝えられます。
カフェは空間の印象が価値の中心になるため、言語が持つイメージを活用することで、どんな時間を過ごせる場所なのかを説明なしで伝えることが可能です。
例えば、「FFUGLEN TOKYO」の「FFUGLEN」は、ノルウェー語で「鳥」を意味する言葉です。この名前は、原点となった喫茶店「THE BIRD」に由来しており、ロゴにもオスロ港の渡り鳥であるアジサシが描かれています。
また、北欧らしいシンプルで落ち着いた印象は、実際の空間デザインやコーヒーのスタイルとも一致しており、ネーミングと体験が一体となって認識される構造になっています。
このように、どの言語を選ぶかによって、カフェのトーンそのものが決まります。
表記の変更
同じ言葉でも、漢字・ひらがな・カタカナ・英語など、表記を変えることで印象を大きく変えられます。
カフェは空間の雰囲気や居心地が重要な業態であるため、意味だけでなく「見た目の印象」もネーミングにおいて重要な要素になります。
例えば「むさしの森珈琲」は、運営会社であるすかいらーくの本社が東京都武蔵野市にあることに由来しており、「むさしの」というひらがな表記によって、親しみやすく穏やかな印象を与えています。
さらに、「森」や「珈琲」といった言葉の選び方と表記によって、「高原リゾートの珈琲店」というコンセプトとも一致しており、ゆとりのあるいやしの空間を想起させる設計です。
カフェのネーミングは「読む」と「見る」が同時に行われるため、どの表記を選ぶかまで含めて設計することが重要です。
由来・ストーリーを持たせる
カフェは、ネーミングに由来やストーリーを持たせることで、単なる店名ではなく、「語りたくなるブランド」として認識されやすいです。
例えば、「猿田彦珈琲」は、日本神話に登場する「導きの神」である猿田彦神に由来しています。「たった一杯で幸せになるコーヒー屋」という理念とも結びついており、名前そのものがブランドの価値観を伝える役割を担っています。
また、ストーリーがある名前は、SNSや会話の中でも話題にされやすく、「なんでこの名前なんだろう?」という興味を生み出します。
カフェは、味や価格だけでなく、共感によって選ばれることも多いため、ネーミングに背景を持たせることが差別化につながります。
カフェのネーミングの注意点
カフェに命名する際に留意すべき点を解説します。
大手カフェチェーンとの差別化
カフェ業界は、スターバックスやドトール、タリーズなど、大手カフェチェーンの認知度が非常に高い市場です。そのため、ネーミングが既存チェーンと似ている場合、「どこかで見たことがある店」という印象になりやすく、個性が埋もれてしまいます。
特にカフェは、通りすがりでなんとなく選ばれることも多いため、名前の印象が似ているだけでも、ユーザーの記憶に残りにくいです。
例えば、英語+Coffeeだけのシンプルな構成は定番化しているため、組み合わせによっては埋もれてしまいます。そのため、コンセプトや空間の特徴など、自店ならではの要素をネーミングに反映させることが重要です。
おしゃれさを優先しすぎない
カフェのネーミングでは、おしゃれさを意識するあまり、意味や読み方が伝わりにくくなってしまうケースがあります。
カフェは、前述の通り事前に調べて来店されるだけでなく、通りすがりに「なんとなく良さそう」と感じて選ばれることも多い業態です。このような状況で、名前が読みにくい・覚えにくい場合、「雰囲気は良かったが店名が思い出せない」という状態になりやすく、再訪につながりません。
さらに、友人との会話やSNSで共有される際にも「あのカフェなんだっけ」と言語化できないことで、拡散の機会を逃す要因にもなります。
おしゃれさは重要な要素ですが、それだけで成立するものではない点に注意に注意が必要です。
検索しにくい名前にしない
カフェは、SNSやGoogleマップで検索される機会が多い業態のため、「検索しやすい名前」であることも重要です。
特に近年は、「Instagramで見つけたカフェを後から検索する」といった行動が一般的になっています。例えば、記号や特殊なスペルを多用すると、入力しづらく検索することを諦めてしまうこともめずらしくありません。
特にカフェは、SNSで写真だけが先に拡散されるケースも多いため、店名を検索できないという状態が起こりやすい業態です。
ネーミングでは、再びたどり着けるかまで含めて設計しましょう。
業態の変化に対応できる名前にする
開店当初はコーヒーを中心にスタートしても、スイーツやランチ、アルコール提供へと広がっていくケースもめずらしくありません。
例えば、昼はカフェとして利用され、夜はバーとして営業するなど、時間帯によって提供価値が変化することもあるでしょう。また、テイクアウト中心からイートイン強化へとシフトするなど、運営方針が変わることもあります。
このような変化がある中で、「コーヒー専門店」など特定の要素に強く寄せすぎた名前にしてしまうと、提供内容が広がった際に名前とのズレが生まれ、ユーザーに違和感を与えてしまいます。
ネーミングは現在の業態を表現するだけでなく、将来どのような使われ方をするかまで見据えて設計する必要があります。
メニュー名・商品名との相性を考える
カフェは、店舗名だけでなく、ドリンク名やスイーツ名も含めて世界観が構成されます。
来店したユーザーは、メニュー表や注文時の会話、SNS投稿などを通じて、店舗名と商品名の両方に触れます。そのため、これらの表現に一貫性がない場合、体験全体に違和感が生まれやすくなります。
例えば、落ち着いた雰囲気のカフェであるにもかかわらず、メニュー名だけがポップすぎると、空間やブランドの印象とズレが生じてしまいます。逆に、店舗名とメニューのトーンがそろっていると、空間・商品・体験が一体となり、このカフェらしさとして記憶に残りやすくなります。
カフェのネーミングは単体で完結するものではなく、メニューや提供体験とどのようにつながるかまで含めて設計することが重要です。
まとめ
カフェのネーミングは、店舗を識別するためだけではなく、空間の世界観やコンセプトを伝え、来店のきっかけをつくる重要な役割を担います。
特にカフェは、通りすがりで選ばれたり、InstagramなどのSNSで写真から認知されたりする機会も多いため、第一印象だけでなく、覚えやすさや読みやすさ、検索しやすさまで考慮することが重要です。
ネーミングを考える際には、造語や多言語化、表記の変更、ストーリーを持たせるなど、さまざまな手法があります。一方で、おしゃれさだけを優先するのではなく、大手カフェチェーンとの差別化や将来的な業態の変化、メニュー名との相性なども含めて設計する必要があります。
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