ブランディングの基礎知識
ブランディングの種類(本記事)
こんにちは。ブランディングとデジタルマーケティングを支援するパープレンス代表の渡邉壮です。
ブランディングの定義を理解した後に、多くの方が疑問に思うことがあります。それは「ブランディングには結局、いくつの種類があるのか」というものです。
この混乱の正体は、情報のグルーピングが整理されていないことにあります。例えば「商品ブランディング」と「アウターブランディング」を同列に語ろうとしても、そもそも分類の切り口が異なるため、議論は噛み合いません。実務において大切なのは、バラバラに存在する用語を正しい軸に当てはめて理解することです。
そこで本記事では、ブランディングを「何を(What to brand)」「誰に(Who to brand for)」「どのように(How to brand)」という三つの視点で整理します。そして、それぞれの分類に含まれる代表的なブランディングの種類を分かりやすく紹介していきます。
何をブランディングするか
まず、対象で分類した場合のブランディングの種類を紹介します。
商品ブランディング
商品ブランディングとは、企業が提供する特定の製品・サービスそのものを対象とするブランディングです。企業全体ではなく、個別の製品やサービスに独自のアイデンティティを付与し、市場の中で明確な位置づけを確立することを目的とします。
製品(プロダクト)ブランディングまたはサービスブランディングともいわれます。
市場には同じカテゴリーの商品が数多く存在しており、機能や価格だけで違いを伝えることは難しくなっています。そのため商品・サービスブランディングでは、名称やデザイン、パッケージ、体験、コミュニケーションなどを通じて、その商品固有の価値を一貫した形で提示します。
企業ブランドとは独立したブランドとして商品が認識されるケースも多く、場合によっては企業名よりも商品名の方が広く知られることもあります。飲料や化粧品、ITサービスなどでは特にこの傾向が強く、商品単体でブランド価値を形成することが競争力の源泉になります。
コーポレート(企業)ブランディング
コーポレートブランディングとは、企業そのものを対象とするブランディングです。個別の商品ではなく、企業という組織全体の姿勢や価値観、存在意義を社会に示すことを目的とします。
企業ブランドは、顧客だけでなく株主や取引先、地域社会、行政、求職者など、多様なステークホルダーに影響します。そのため、ビジョンやミッション、行動指針などがブランドの中心的要素です。
企業ブランドが強固になると、個別の商品がまだ知られていなくても「この会社の商品なら安心できる」という信頼が生まれやすくなります。逆に企業の姿勢に対する評価が低下すると、商品ブランドにも影響が及ぶことがあります。
近年ではESGやサステナビリティ、社会的責任といった観点もコーポレートブランディングの重要な要素となっており、企業が社会とどのような関係を築くのかがブランド価値に大きく影響するようになっています。
パーソナルブランディング
パーソナルブランディングとは、個人を対象とするブランディングです。企業や商品ではなく、一人の人物がどの分野でどのような価値を提供する存在なのかを社会に示していく取り組みです。
従来、ブランドは企業や商品に紐づくものと考えられてきましたが、インターネットやSNSの普及によって個人が直接情報発信できる環境が整い、個人そのものがブランドとして認識される機会が増えました。起業家やクリエイター、コンサルタント、研究者などの専門職では、個人の名前がブランドとして機能することも珍しくありません。
パーソナルブランディングでは、その人物の専門分野や経験、発信内容、価値観などがブランド認識の中心となります。個人が築いた信頼や評価は、所属する企業やプロジェクトにも波及するため、組織のブランド戦略と密接に関係します。
地域ブランディング
地域ブランディングとは、特定の地域そのものを対象とするブランディングです。自治体や観光地、あるいはその地域に根ざした文化や産業を一つのブランドとして位置づけます。
地域ブランドは、特定の商品や施設だけで構成されるものではありません。自然環境や歴史、文化、食、産業、暮らし方など、多様な要素が組み合わさって地域のイメージが形成されます。そのため地域ブランディングは、自治体や企業、住民など複数の主体が関わる取り組みになることが一般的です。
地域のブランド価値が明確になると、観光客の増加や企業誘致、移住促進、地場産業の活性化などさまざまな波及効果が生まれます。単なる観光PRではなく、その地域が社会の中でどのような価値を持つ場所なのかを整理することが地域ブランディングの核心です。
誰に対してブランディングするか
次に、受け手で分類した場合のブランディングの種類を紹介します。
アウターブランディング
アウターブランディングとは、企業の外部にいる人々を対象とするブランディングです。顧客や取引先、投資家など、市場や社会に向けて企業や商品のイメージを形成します。
広告や広報、PR活動、Webサイト、SNS、商品デザインなど、外部とのあらゆる接点を通じてブランド認識が形成されます。市場での認知度を高め、好意的なイメージを定着させることが主な役割です。
多くの企業が最初に取り組むブランディングはこのアウターブランディングであり、市場において企業や商品がどのように見られているかを直接的に左右します。
インナーブランディング
インナーブランディングとは、企業の社員や組織内部のメンバーを対象とするブランディングです。企業の理念やブランドの考え方を社内に浸透させ、組織としての行動を揃えることを目的とします。
ブランドは広告やデザインだけで形成されるものではなく、企業の社員がどのように行動するかによっても強く影響を受けます。そのため社員がブランドの価値を理解し、それを日々の業務の中で体現できる状態を作ることが重要になります。
インナーブランディングが機能すると、組織としての判断基準が共有され、顧客との接点においてもブランドとして一貫した行動が生まれやすくなります。
採用ブランディング
採用ブランディングとは、求職者や転職希望者を対象とするブランディングです。採用市場において企業がどのような職場であり、どのような価値観を持つ組織なのかを伝える活動を指します。
求人サイトや採用ページ、説明会、インターンシップなどを通じて企業のイメージが形成されるため、採用活動そのものがブランドコミュニケーションの場になります。
企業の事業内容や待遇だけでなく、働く環境や文化、成長機会などを具体的に提示することで、企業に適した人材を惹きつけられます。
どのようにブランディングするか
最後に、方法で分類した場合のブランディングの種類を紹介します。
リブランディング
リブランディングとは、既存ブランドを再定義し再構築するブランディング手法です。時代や市場環境の変化に合わせて、ブランドの方向性や表現を見直します。
ブランドの価値やコンセプトを再整理し、必要に応じてロゴやデザイン、メッセージなどを更新します。既存のブランド資産を生かしながら、新しい市場環境に適応させることがリブランディングの特徴です。
マルチ・ブランド戦略(マルチブランディング)
マルチ・ブランド戦略とは、一つの企業が複数のブランドを並行して展開するブランディング手法です。同じカテゴリーの製品であっても、ブランドごとに異なるターゲットやコンセプトを設定します。
これにより、一つのブランドでは対応できない多様な顧客ニーズをカバーできます。複数ブランドを展開することで市場全体での存在感を高められるため、消費財企業などで広く採用されています。
サブ・ブランド戦略(サブブランディング)
サブ・ブランド戦略とは、既存ブランドの下に派生ブランドを展開するブランディング手法です。親ブランドの信頼や知名度を背景に、新しい商品ラインや新市場へ展開できます。
親ブランドの価値を生かしながら、特定の顧客層や用途に特化したブランドを構築できるため、新しい市場への参入を比較的低リスクで行える点が特徴です。
共同ブランディング(コ・ブランディング)
共同ブランディングとは、複数の企業やブランドが協力して行うブランディング手法です。異なるブランドの強みや顧客層を組み合わせることで、新しい価値や話題性を生み出します。
異業種同士のコラボレーションやキャラクターとの共同企画などが代表例で、単独のブランドでは到達できない顧客層にアプローチできる点が特徴です。
デ・ブランディング
デ・ブランディングとは、ブランドを示す要素を意図的に減らしたり、取り除いたりするブランディング手法です。ブランド名や企業名を前面に出さず、ロゴやデザインなど限られた要素だけでブランドを認識してもらう方法も含まれます。
ロゴにおける代表例が、ナイキとスターバックスです。ナイキはブランド名の表記を省き、「スウッシュ」と呼ばれるシンボルのみでもブランドを認識できるようになっています。スターバックスも、現在のロゴでは「STARBUCKS COFFEE」の文字をなくし、人魚(サイレン)のシンボルを中心としたデザインを採用しています。
キャンペーンでデ・ブランディングを活用した例としては、コカ・コーラの「Share a Coke(コークをシェアしよう)」があります。米国では2014年、コカ・コーラのロゴが配置されていたラベルの中心部分に人のファーストネームなどを入れたネームボトルを展開しました。ブランド名を一部置き換える大胆な施策によって、消費者が自分や家族、友人の名前を探して商品を購入・共有する体験を生み出し、大きな反響を呼びました。
このようにデ・ブランディングは、単純にブランド要素をなくすことではありません。すでに蓄積されたブランド認知を生かしながら、あえて情報を減らすことで、ブランドの象徴性や顧客との関係を強める手法といえます。
まとめ
ブランディングにはさまざまな種類がありますが、全てを同じ軸で並べると、それぞれの違いが分かりにくくなります。
本記事では、ブランディングの種類を「何をブランディングするか」「誰に対してブランディングするか」「どのようにブランディングするか」という三つの視点で整理しました。
「何を」という視点では、商品・サービス、企業、個人、地域などが対象になります。「誰に」という視点では、顧客や取引先など社外に向けたアウターブランディング、社員に向けたインナーブランディング、求職者に向けた採用ブランディングなどに分けられます。
さらに「どのように」という視点では、リブランディングやマルチ・ブランド戦略、サブ・ブランド戦略、共同ブランディング、デ・ブランディングなど、ブランドを構築・運用するためのさまざまな方法があります。
重要なのは、自社に必要なブランディングの名称を探すことではありません。「何をブランドとして確立したいのか」「誰からどのように認識されたいのか」「そのためにどのような方法を取るのか」を順番に整理することです。
この三つの視点から考えることで、自社に必要なブランディング施策を整理しやすくなり、一貫したブランド戦略を設計できるようになります。
